

白内障手術を「元気なうちに、早めに」受けるべき医学的理由
これまでの大規模な臨床研究データを総合すると、白内障手術は視力が極端に低下してから、あるいは超高齢になってから行うよりも、「全身状態が良好で、自立した生活を送っている時期」に行う方が、手術の成功率が高く、その後の健康寿命を延ばす効果も大きいことが明らかになっています。
主な理由は以下の4点です。
1. 「90歳の壁」:ADL(日常生活動作)向上の限界
手術を受ける年齢が90歳を超えると、手術で視力が回復しても、それによって生活の質(ADL)が改善する
可能性が著しく低下します。日本の大規模データベース研究によると、90歳以上の患者は、80代の患者と
比較して、術後のADL改善率が低い(オッズ比0.33)という結果が示されています。90歳を超えると、白内障以外の眼の病気や、全身・認知機能の衰えが進行しており、単に目が見えるようになっても活動的な生活に
戻ることが難しくなるためです。したがって、どんなに遅くても90歳を迎える前の手術が推奨されます。
2. 手術リスクの増大:水晶体の硬化と合併症
「見えなくなるまで待つ」ことは、手術そのものを難しくし、手術時の合併症を増やします。
• 水晶体の硬化: 高齢になるほど、また白内障を放置するほど、水晶体は茶色く硬くなります。進行した
例では、水晶体は浅田飴のニッキのような色と硬さになります。高齢になればなるほど水晶体は堅くなり、
手術時により強い超音波エネルギーが必要となり、角膜へのダメージなどのリスクが高まります。
• 全身疾患の影響: 加齢とともに高血圧や糖尿病、腎機能障害などの合併症が増え、手術後の視力回復を
妨げる要因となります。また、前立腺肥大症の薬を服用していると「術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)」という合併症が起きやすくなりますが、高齢者ではこのリスクもとても高くなります。
3. 重大な事故の予防:転倒・骨折リスクの軽減
白内障手術は単に「目が見えるようになる」だけでなく、「命に関わる怪我を防ぐ」予防医療としての側面があります。
• 転倒・骨折の減少: 最新の研究では、白内障手術を受けた患者は、受けなかった患者に比べて、転倒、
股関節骨折、脊椎骨折などのリスクが有意に低いことが示されています。
• 頭部外傷の予防: さらに、硬膜下血腫などの頭蓋内出血のリスクも低下することがわかっています。視力低下による転倒は、寝たきりの原因となる重大な怪我に直結するため、足腰が丈夫なうちに視覚を整えることが
重要です。
4. 生活環境の変化:介護施設入所前のタイミング
どこに住んでいるかも、手術の効果を左右します。
• 「自宅」にいるうちに: 介護施設に入所してから手術を受けるよりも、自宅で生活している間に手術を受けた方が、術後のADL改善効果が高いことが報告されています(オッズ比1.56)。施設入所が必要になる段階では、すでに認知機能や身体機能の低下が進んでいることが多く、手術のメリットを十分に享受できない可能性があります。
以上のように、白内障手術を先送りにして「本当に見づらくなってから」手術を受けようとすることは、手術の難易度を上げ、回復を遅らせるリスク要因となります。
白内障手術の最適なタイミングは、「不便を感じ始めたら、まだ体が元気で、自宅で自立した生活ができて
いるうち」です。
これが、手術による視力回復の恩恵を最大限に活かし、その後の人生を転倒などの事故なく安全に過ごすための最良の選択と言えます。
Sadamatsu Y, et al. Activity of daily living improvement after cataract surgery for patients in nursing care facilities. Annals of Clinical Epidemiology 1: 80-85, 2019.
Hiratsuka Y, et al. Improvement in activities of daily living after cataract surgery in the very old. Annals of Clinical Epidemiology 3:109-115, 2021.
Nussinovitch H, et al. Cataract surgery in very old patients: A case-control study. Journal of Clinical Medicine, 10, 2021.
Wong TY. Effect of increasing age on cataract surgery outcomes in very elderly patients. British Medical Journal, 322, 1104 – 1106, 2001.
Yong G, et al. Risk factors affecting cataract surgery outcome: The Malaysian cataract surgery registry. PLoS ONE, 17, 2022.
Hackl C, et al. Age-related cataract extraction is associated with decreased falls, fractures, and intracranial hemorrhages in older adults. Journal of the American Geriatrics Society, 73, 2025.
ゲスト寄稿 平塚義宗

ロービジョンケアにおける
医教連携の重要性とその展望
ロービジョンケアを真に実効性のあるものにするためには、医療と教育の緊密な連携が不可欠です。
医療の役割は、精緻な視機能評価や診断、そして個々の症例に応じた補助具の選定にあります。一方で教育現場は、その医学的知見を基に、学習環境の調整や合理的配慮を具現化する役割を担っています。この両者が手を取り合うことで、初めて子どもの「見え方」や「困難さ」を多角的に把握することができ、日常生活や学習場面のニーズに即した具体的な支援が可能となります。
また、早期から医療と教育が情報を共有することは、将来を見据えた適切な指導や進路支援につなげることができます。さらに、医療と教育が共通の視座を持って保護者を支えることで、ご家族の不安を和らげ、支援方針への深い理解と信頼を醸成することにも繋がります。
こうした連携の実効性を高めるためには、眼科専門職以外の方々にも理解しやすい
「共通言語」での情報共有が望まれます。その一助として、「ロービジョン連携手帳」1) の活用や、保有視機能の程度を0から100点のスケールで可視化できるFVS2) の導入は、極めて有効な手段であると考えられます。
医療と教育の垣根を越えたシームレスな連携こそが、ロービジョン児・者の学習機会を保障し、豊かな社会参加を促進するための鍵となるのです。
1) 大原 朱桜, 他 : 第24回日本ロービジョン学会. 2023
2) 鶴岡 三惠子, 他 : 臨床眼科.70(3),2016
原田亮

医療福祉連携について
「私は今までに何眼潰したかな?」と自問して「まあ108(煩悩の数)かな」と考えることにしています。今でもはっきりと患者さんの顔と表情まで思い出せるもの、曖昧にしか思い出せないものや私の認識なくその後失明に至ってしまったものも含めて、眼科医として職業上の「業」と思います。
さて、11年前の私達の発表では広島県における調査で視覚障害者が発症から視覚リハビリテーションにたどり着くまでに一年未満であった割合が9%1)でしたが、4年前の全国調査では24%2)でした。この7年間で約2.7倍になったのは日本眼科医会をはじめとする関係各位の努力の結果と思いますが、まだ4人のうち3人は一年以内に視覚リハビリテーションにたどり着いていない現実は厳しいです。
また、患者の視覚リハビリテーションへの取り組みに喜びを見出す都道府県眼科医会のリーダー眼科医が半数以上います3)。今後はこの医師の割合を増やすことと、今よりもスマートな医療福祉連携システム構築でより早期に視覚リハビリテーションにつなぐことが「業」を背負った私の目標です。
1)第24回視覚障害リハビリテーション研究発表大会:2015/6/27
2)第23回日本ロービジョン学会:2022/5/20
3)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20H01595/
ゲスト寄稿 奈良井章人

高齢者へのロービジョンケア
在宅要支援者・要介護者、介護施設での視機能評価とロービジョンケアの必要性
2025年は、年間260万人以上が生まれた第1次ベビーブーム世代(1947~1949年生まれ)が、すべて75歳以上の後期高齢者になる年です。高齢化が加速していく現象を含めて「2025年問題」とよばれ、社会に大きな変化が訪れると言われています。ロービジョン者は65歳以上が70%を占めるといわれており、高齢者へのロービジョンケア、とくに介護施設での必要性が高まっています。
最近の研究では、「視覚障害は栄養状態や転倒リスク、認知機能、QOL(生活の質)に影響を与える」ことがあらためて確認されており、介護施設における視覚ケアの重要性が再認識されています¹。
視覚障害と栄養状態・健康との関係を調べた研究でも、結論として「視覚障害は栄養不良や口腔機能の問題、認知低下と関連するため、介護現場では視覚機能の把握と、それに応じたケアが重要である」と提言²しています。
しかし、「実際の施設現場では十分な連携・視機能チェック・ケア体制が整っていない」ことが多く、ロービジョンケアの認知・活用が広がっていないという現実も指摘されています³。
先にコラムで紹介したLVFAMは、日常視の視機能を評価する(LVFDL)ことと、日常生活活動(LVADL)を分けて評価できるため、介護現場でのロービジョン者のスクリーニングや視機能チェックにも有用と考えられます。
1)Vision impairment is a risk factor for malnutrition in older long-term care residents
Brief Report Open access Published: 17 November 2025
2)Vision impairment is a risk factor for malnutrition in older long-term care residents(2025年 European Geriatric Medicine)
3)齋藤 崇志,他 高齢者介護における医療介護職とロービジョンケア専門職の連携―医療介護職を対象としたオンラインアンケート調査― 日本老年療法学会誌2023.2 巻.1-9
小野峰子

FVS:視機能の全体像を捉える新たな指標としての可能性
視機能評価において、最も広く用いられている指標のひとつがBCVA(best-corrected visual acuity)です。多くの臨床研究では、右眼または左眼のBCVA、あるいは良好眼の 値を用いて解析が行われています。しかし、PROM(Patient-Reported Outcome Measures) たとえばVFQ-25やVFQ-11が反映するのは、両眼での実生活における視覚機能です。 このため、単眼BCVAとの間に概念的な不一致が生じ、相関が弱くなることがあります。
両眼視力を用いることで、こうした不一致はある程度解消されますが、それでも視力 のみでは日常の「見えづらさ」を十分に捉えることは困難です。
そこで注目されるのが、FVS(Functional Vision Score)です。FVSは、両眼・右眼・左眼の視力と視野を加重平均し、機能的な視覚能力を数値化する指標です。
たとえば、緑内障や加齢黄斑変性の患者を対象とした研究では、FVSを用いることで、視力低下と視野障害の複合的な影響をPROMと照らし合わせて解析できます。さらに、
術後の回復評価や運転適性の判断など、実生活に直結する研究領域でもFVSの活用が
期待されます。
BCVAや両眼視力だけでは見えない「生活の中の視機能」を、FVSはより正確に捉える
可能性を秘めています。
- Mangione CM et al.:Development of the 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire. Archives of Ophthalmology, 2001;119(7):1050–1058.
- Colenbrander A.:The functional vision score: a coordinated scoring system for visual impairments, disabilities, and handicaps. In: Kooiman AC, Looijestijn PL, Welling JA, van der Wildt GJ, eds. Low Vision: Research and New Developments in Rehabilitation. Studies in Health Technology and Informatics. Amsterdam, The Netherlands: IOS Press; 1994:552–561.
- Suzukamo Y et al.:Psychometric properties of the 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire (NEI VFQ-25), Japanese version. Health and Quality of Life Outcomes, 2005;3:65.
- Goldstein JE et al.:Visual Acuity: Assessment of Data Quality and Usability in an Electronic Health Record System. Ophthalmol Sci. 2022 Sep 6;3(1)
鶴岡三惠子

コントラスト感度にも注目しましょ う
視力検査では明確な線や文字を識別する能力を測定しますが、実際の生活環境では必ずしも高コントラストの対象ばかりではありません。そこで注目されているのが、物の「濃淡差」を識別するコントラスト感度です。コントラスト感度が低下すると、視力値が良好でも、薄暗い場所で段差を見落としたり、まぶしさを強く感じたりするなど、日常生活動作(ADL)に支障をきたすことがあります。
中野ら(2024)は、原発開放隅角緑内障(POAG)眼において、明所および薄暮下のいずれの条件でも後期群で感度低下が認められたと報告しています。したがって、早期診断や進行評価の補助指標として、コントラスト感度測定を活用する意義は大きいといえます。
AMA “The Guides to the Evaluation of Permanent Impairment” 第12章でも、視力や視野のみならず、コントラスト感度やまぶしさへの耐性といった要素が視覚機能の重要な側面であると述べられています。これらを総合的に理解することが、患者の生活の質(QOL)向上につながります。
裂孔原性網膜剥離の手術侵襲によっても、視力が正常にもかかわらずコントラスト感度の低下や歪視などがおこり視機能が低下していると言われています。これらの他にも数多くのコントラスト感度に関する論文があります。眼科領域だけでなく、照明の分野や人間工学などの分野のものも読んでみましょう。
1) 中野里絵子. 広義原発開放隅角緑内障眼のコントラスト感度測定. 新潟大学学術リポジトリ, 2024.
https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/records/2001854
2) AMA. The Guides to the Evaluation of Permanent Impairment, 6th ed., Chapter 12.
3) 岡本 史樹. 総説 網膜疾患と視機能. 視覚の科学.41 巻 (2020) 4 号. p. 51-55
村上美紀

VFQ-J11:視機能関連QOL評価の新たな標準
視覚障害が患者さんの日常生活の質(QOL)に与える影響を正確に、そして、数値として評価することは、医療現場においてにとても重要です。このニーズに応えるべく開発されたのが、「VFQ-J11(Visual Function Questionnaire, 11-item Japanese version)」です。 この革新的な質問票は、従来の国際的に広く用いられてきたVFQ-25の利点を継承しつつ、患者さんにとってより利用しやすいように最適化されています。
VFQ-J11の最も顕著な特徴は、患者さんの負担を大幅に軽減できる点にあります。質問数が従来のVFQ-25の25問からわずか11問に削減され、質問票のページ数も8ページから2ページに、回答に要する時間も約2分短縮されました。これにより、診療の待ち時間や電話での聞き取りなど、限られた時間の中でも効率的かつ確実にVRQoLの評価を行うことが可能になりました。
負担軽減にも関わらず、VFQ-J11は優れた心理測定特性と高い妥当性を維持しています。白内障患者さんを対象とした大規模な多施設共同研究では、VFQ-J11スコアがより良い方の眼の視力と有意に関連し、さらに白内障手術による視力改善がVFQ-J11スコアの改善に大きく寄与することが明確に示されました。特に、片眼手術よりも両眼手術の方がVRQoLの改善に大きな影響を与えるという示唆は、治療方針の決定においても貴重な情報となります。
また、VFQ-J11は、日本の法的視覚障害等級が視機能関連QOLの程度を適切に反映してい
ることを示し、その高い感度はVFQ-25を上回る可能性も指摘されています。様々な原因疾患による視覚障害患者のQOL評価においても、VFQ-J11はVFQ-25と同等に有用な指標
であることが確認されており、幅広い患者層と病態に対応できます。
患者さんの声に基づいたアウトカム評価の重要性が高まる現代において、VFQ-J11は、 その簡便さ、有効性、そして信頼性から、視機能関連QOLを評価するための強力かつ実用的なツールとして、さまざまな医療現場において活用されることが期待されます。
• Fukuhara S, et al.: Development of a short version of the visual function questionnaire
using item-response theory. PLoS One 8:e73084, 2013.
• Hiratsuka Y, et al.: Assessment of vision-related quality of life among patients with
cataracts and the outcomes of cataract surgery using a newly developed visual function
questionnaire: the VFQ-J11. Japanese Journal of Ophthalmology, 58, 415–422, 2014.
• Kawashima M, et al.: The association between legal Japanese visual impairment grades
and vision-related quality of life. Japanese Journal of Ophthalmology, 60, 219–225, 2016.
• Nakano T, et al.: Assessment of quality of life in patients with visual impairments using a
new visual function questionnaire: the VFQ-J11. Clinical Ophthalmology, 10, 1939–1944,2016.
ゲスト寄稿 平塚義宗

視野検査の進化がもたらす
新しい視機能評価のかたち
視野検査は、視機能評価において中心的な役割を担う検査の一つです。
患者さんの実生活における「見え方」や、それが生活に及ぼす影響を客観的に示す
機能的アウトカムとして、極めて重要な位置を占めています。
その重要性は、視覚障害認定(身体障害者手帳)における等級判定や、
ロービジョンリハビリテーションの適応判断・効果測定など、多岐にわたる場面で
認識されています。特に、FVS(Functional Visual Score)やEstermanテストは、
QOL(Quality of Life)との関連性が高い視機能評価法として注目されています。
これらのスコアは、Goldmann視野計による動的視野検査や、自動視野計による
静的視野検査によって測定されます。近年、客観性と再現性の観点から、
静的視野検査による測定が主流となっています。
一方、従来は検者が手動で行うのが一般的であった動的視野検査においても、
自動測定プログラムの開発が進んでいます¹。複数の研究報告によれば、この自動化された動的視野検査は、従来のGoldmann視野計と比較して診断精度に遜色がないとされています²,³。
こうした視野計の技術的進歩は、視機能評価をより身近で客観的なものにしました。
今後、臨床現場における活用がますます広がることが期待されます。
1) Hashimoto S, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015
2) Claudia B, Acta Ophthalmol, 2019.
3) Schiefer U, Klin Monbl Augenheilkd. 2024
原田亮

LVFAM開発者として
LVFAMは、ラッシュモデルを適用して設計された尺度です。
このモデルの特徴により、項目ごとの難易度が標準化され、
やさしいものから順に並べられている点が、本尺度の魅力のひとつです。
そのため、支援を計画する際には、患者さんが取り組みにくい項目の中から
比較的やさしいものを選んでサポートすることができ、
成功体験につながりやすい支援を立てやすいという利点があります。
もちろん、患者さんのニーズを第一に考えることが大切ですが、
達成感を得やすい計画を立てるうえで、有効な指針となります。
また、LVFAMはロービジョンケアのアウトカム評価にも適しています。
視機能自体の回復は難しい場合でも、ケアを通じて
視覚補助具の使用やその他の手段によって
「情報を得ることができなかった」状態から
「情報を得られるようになった」かどうかを、具体的に評価することが可能です。
さらに、ロービジョンケアの実施前後でLVFAMの得点に明確な変化が見られるため、
ケアの成果をアウトカムとして確認できるツールとしても有用です。
小野峰子