

高齢者へのロービジョンケア
在宅要支援者・要介護者、介護施設での視機能評価とロービジョンケアの必要性
2025年は、年間260万人以上が生まれた第1次ベビーブーム世代(1947~1949年生まれ)が、すべて75歳以上の後期高齢者になる年です。高齢化が加速していく現象を含めて「2025年問題」とよばれ、社会に大きな変化が訪れると言われています。ロービジョン者は65歳以上が70%を占めるといわれており、高齢者へのロービジョンケア、とくに介護施設での必要性が高まっています。
最近の研究では、「視覚障害は栄養状態や転倒リスク、認知機能、QOL(生活の質)に影響を与える」ことがあらためて確認されており、介護施設における視覚ケアの重要性が再認識されています¹。
視覚障害と栄養状態・健康との関係を調べた研究でも、結論として「視覚障害は栄養不良や口腔機能の問題、認知低下と関連するため、介護現場では視覚機能の把握と、それに応じたケアが重要である」と提言²しています。
しかし、「実際の施設現場では十分な連携・視機能チェック・ケア体制が整っていない」ことが多く、ロービジョンケアの認知・活用が広がっていないという現実も指摘されています³。
先にコラムで紹介したLVFAMは、日常視の視機能を評価する(LVFDL)ことと、日常生活活動(LVADL)を分けて評価できるため、介護現場でのロービジョン者のスクリーニングや視機能チェックにも有用と考えられます。
1)Vision impairment is a risk factor for malnutrition in older long-term care residents
Brief Report Open access Published: 17 November 2025
2)Vision impairment is a risk factor for malnutrition in older long-term care residents(2025年 European Geriatric Medicine)
3)齋藤 崇志,他 高齢者介護における医療介護職とロービジョンケア専門職の連携―医療介護職を対象としたオンラインアンケート調査― 日本老年療法学会誌2023.2 巻.1-9
小野峰子

FVS:視機能の全体像を捉える新たな指標としての可能 性
視機能評価において、最も広く用いられている指標のひとつがBCVA(best-corrected visual acuity)です。多くの臨床研究では、右眼または左眼のBCVA、あるいは良好眼の 値を用いて解析が行われています。しかし、PROM(Patient-Reported Outcome Measures) たとえばVFQ-25やVFQ-11が反映するのは、両眼での実生活における視覚機能です。 このため、単眼BCVAとの間に概念的な不一致が生じ、相関が弱くなることがあります。
両眼視力を用いることで、こうした不一致はある程度解消されますが、それでも視力 のみでは日常の「見えづらさ」を十分に捉えることは困難です。
そこで注目されるのが、FVS(Functional Vision Score)です。FVSは、両眼・右眼・左眼の視力と視野を加重平均し、機能的な視覚能力を数値化する指標です。
たとえば、緑内障や加齢黄斑変性の患者を対象とした研究では、FVSを用いることで、視力低下と視野障害の複合的な影響をPROMと照らし合わせて解析できます。さらに、
術後の回復評価や運転適性の判断など、実生活に直結する研究領域でもFVSの活用が
期待されます。
BCVAや両眼視力だけでは見えない「生活の中の視機能」を、FVSはより正確に捉える
可能性を秘めています。
- Mangione CM et al.:Development of the 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire. Archives of Ophthalmology, 2001;119(7):1050–1058.
- Colenbrander A.:The functional vision score: a coordinated scoring system for visual impairments, disabilities, and handicaps. In: Kooiman AC, Looijestijn PL, Welling JA, van der Wildt GJ, eds. Low Vision: Research and New Developments in Rehabilitation. Studies in Health Technology and Informatics. Amsterdam, The Netherlands: IOS Press; 1994:552–561.
- Suzukamo Y et al.:Psychometric properties of the 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire (NEI VFQ-25), Japanese version. Health and Quality of Life Outcomes, 2005;3:65.
- Goldstein JE et al.:Visual Acuity: Assessment of Data Quality and Usability in an Electronic Health Record System. Ophthalmol Sci. 2022 Sep 6;3(1)
鶴岡三惠子

コントラスト感度にも注目しましょう
視力検査では明確な線や文字を識別する能力を測定しますが、実際の生活環境では必ずしも高コントラストの対象ばかりではありません。そこで注目されているのが、物の「濃淡差」を識別するコントラスト感度です。コントラスト感度が低下すると、視力値が良好でも、薄暗い場所で段差を見落としたり、まぶしさを強く感じたりするなど、日常生活動作(ADL)に支障をきたすことがあります。
中野ら(2024)は、原発開放隅角緑内障(POAG)眼において、明所および薄暮下のいずれの条件でも後期群で感度低下が認められたと報告しています。したがって、早期診断や進行評価の補助指標として、コントラスト感度測定を活用する意義は大きいといえます。
AMA “The Guides to the Evaluation of Permanent Impairment” 第12章でも、視力や視野のみならず、コントラスト感度やまぶしさへの耐性といった要素が視覚機能の重要な側面であると述べられています。これらを総合的に理解することが、患者の生活の質(QOL)向上につながります。
裂孔原性網膜剥離の手術侵襲によっても、視力が正常にもかかわらずコントラスト感度の低下や歪視などがおこり視機能が低下していると言われています。これらの他にも数多くのコントラスト感度に関する論文があります。眼科領域だけでなく、照明の分野や人間工学などの分野のものも読んでみましょう。
1) 中野里絵子. 広義原発開放隅角緑内障眼のコントラスト感度測定. 新潟大学学術リポジトリ, 2024.
https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/records/2001854
2) AMA. The Guides to the Evaluation of Permanent Impairment, 6th ed., Chapter 12.
3) 岡本 史樹. 総説 網膜疾患と視機能. 視覚の科学.41 巻 (2020) 4 号. p. 51-55
村上美紀

VFQ-J11:視機能関連QOL評価の新たな標準
視覚障害が患者さんの日常生活の質(QOL)に与える影響を正確に、そして、数値として評価することは、医療現場においてにとても重要です。このニーズに応えるべく開発されたのが、「VFQ-J11(Visual Function Questionnaire, 11-item Japanese version)」です。 この革新的な質問票は、従来の国際的に広く用いられてきたVFQ-25の利点を継承しつつ、患者さんにとってより利用しやすいように最適化されています。
VFQ-J11の最も顕著な特徴は、患者さんの負担を大幅に軽減できる点にあります。質問数が従来のVFQ-25の25問からわずか11問に削減され、質問票のページ数も8ページから2ページに、回答に要する時間も約2分短縮されました。これにより、診療の待ち時間や電話での聞き取りなど、限られた時間の中でも効率的かつ確実にVRQoLの評価を行うことが可能になりました。
負担軽減にも関わらず、VFQ-J11は優れた心理測定特性と高い妥当性を維持しています。白内障患者さんを対象とした大規模な多施設共同研究では、VFQ-J11スコアがより良い方の眼の視力と有意に関連し、さらに白内障手術による視力改善がVFQ-J11スコアの改善に大きく寄与することが明確に示されました。特に、片眼手術よりも両眼手術の方がVRQoLの改善に大きな影響を与えるという示唆は、治療方針の決定においても貴重な情報となります。
また、VFQ-J11は、日本の法的視覚障害等級が視機能関連QOLの程度を適切に反映してい
ることを示し、その高い感度はVFQ-25を上回る可能性も指摘されています。様々な原因疾患による視覚障害患者のQOL評価においても、VFQ-J11はVFQ-25と同等に有用な指標
であることが確認されており、幅広い患者層と病態に対応できます。
患者さんの声に基づいたアウトカム評価の重要性が高まる現代において、VFQ-J11は、 その簡便さ、有効性、そして信頼性から、視機能関連QOLを評価するための強力かつ実用的なツールとして、さまざまな医療現場において活用されることが期待されます。
• Fukuhara S, et al.: Development of a short version of the visual function questionnaire
using item-response theory. PLoS One 8:e73084, 2013.
• Hiratsuka Y, et al.: Assessment of vision-related quality of life among patients with
cataracts and the outcomes of cataract surgery using a newly developed visual function
questionnaire: the VFQ-J11. Japanese Journal of Ophthalmology, 58, 415–422, 2014.
• Kawashima M, et al.: The association between legal Japanese visual impairment grades
and vision-related quality of life. Japanese Journal of Ophthalmology, 60, 219–225, 2016.
• Nakano T, et al.: Assessment of quality of life in patients with visual impairments using a
new visual function questionnaire: the VFQ-J11. Clinical Ophthalmology, 10, 1939–1944,2016.
ゲスト寄稿 平塚義宗

視野検査の進化がもたらす
新しい視機能評価のかたち
視野検査は、視機能評価において中心的な役割を担う検査の一つです。
患者さんの実生活における「見え方」や、それが生活に及ぼす影響を客観的に示す
機能的アウトカムとして、極めて重要な位置を占めています。
その重要性は、視覚障害認定(身体障害者手帳)における等級判定や、
ロービジョンリハビリテーションの適応判断・効果測定など、多岐にわたる場面で
認識されています。特に、FVS(Functional Visual Score)やEstermanテストは、
QOL(Quality of Life)との関連性が高い視機能評価法として注目されています。
これらのスコアは、Goldmann視野計による動的視野検査や、自動視野計による
静的視野検査によって測定されます。近年、客観性と再現性の観点から、
静的視野検査による測定が主流となっています。
一方、従来は検者が手動で行うのが一般的であった動的視野検査においても、
自動測定プログラムの開発が進んでいます¹。複数の研究報告によれば、この自動化された動的視野検査は、従来のGoldmann視野計と比較して診断精度に遜色がないとされています²,³。
こうした視野計の技術的進歩は、視機能評価をより身近で客観的なものにしました。
今後、臨床現場における活用がますます広がることが期待されます。
1) Hashimoto S, Invest Ophthalmol Vis Sci. 2015
2) Claudia B, Acta Ophthalmol, 2019.
3) Schiefer U, Klin Monbl Augenheilkd. 2024
原田亮

LVFAM開発者として
LVFAMは、ラッシュモデルを適用して設計された尺度です。
このモデルの特徴により、項目ごとの難易度が標準化され、
やさしいものから順に並べられている点が、本尺度の魅力のひとつです。
そのため、支援を計画する際には、患者さんが取り組みにくい項目の中から
比較的やさしいものを選んでサポートすることができ、
成功体験につながりやすい支援を立てやすいという利点があります。
もちろん、患者さんのニーズを第一に考えることが大切ですが、
達成感を得やすい計画を立てるうえで、有効な指針となります。
また、LVFAMはロービジョンケアのアウトカム評価にも適しています。
視機能自体の回復は難しい場合でも、ケアを通じて
視覚補助具の使用やその他の手段によって
「情報を得ることができなかった」状態から
「情報を得られるようになった」かどうかを、具体的に評価することが可能です。
さらに、ロービジョンケアの実施前後でLVFAMの得点に明確な変化が見られるため、
ケアの成果をアウトカムとして確認できるツールとしても有用です。
小野峰子